QAB(琉球朝日放送株式会社)のアナウンサーとして、沖縄のニュースを最前線で伝える山城咲貴さん。カメラの前に立つ凛とした姿と、見る人を包み込むようなやわらかな笑顔。その両方をあわせもつ山城さんは、一歩スタジオを降りると、4歳の息子を育てる母として、そして3度の流産というつらい経験をされた一人の女性として、深い葛藤の中にいました。「誰にも知られずにいたい」という思いを抱えながらも、なぜ彼女は今、自らの経験を言葉にし、発信することを決めたのか。そこには、同じ悩みを持つ女性たちへエールを送りたいという報道人としての使命感と、自らの気持ちを声に出して前に進みたいという強い思いがありました。今回は、山城さんが「声に出す」ことで切り開いてきたアナウンサーとしての歩みと、命と向きあいたいという切実な思いをお聞きしています。ぜひ最後までご覧ください。毎日が「異なる刺激」の連続。ニュースと取材に合わせて動く、アナウンサーのリアルな日常——現在担当されている仕事内容や、アナウンサーとしての1日のスケジュールを教えてください。山城さん:私のアナウンサーとしての働き方は、毎日決まった時間枠ではありません。報道は基本10時出社の18時退社。休憩時間の兼ね合いもあり、あらかじめ1時間短縮した就業時間に設定されています。また、夕方のニュースを担当する日は、基本11時〜19時の勤務です。それ以外の日は、取材の時間に合わせて出社します。大型店舗のオープンに合わせて朝3時に出社した日もあり、まさに「日によってバラバラ」です。高校野球のシーズンは、朝6時に出社して取材現場へ向かい、仕事が終わる夕方まで、という日もあります。常に何が起こるかわからないこの仕事は、毎日異なる刺激があってとても新鮮です。「やりたい!」が原動力。石垣島の野球少女が、QABのマイクを握るまで——報道関係の仕事を志したきっかけや、QABを志望された動機について教えてください。山城さん:小さい頃から思い立ったら行動するタイプで、一度決めたら希望の道に進むための方法を考えていました。地元・石垣島で小学生のころ野球部に所属していたこともあって、気づけば「甲子園など野球番組に携わりたい」と思うようになりました。夢を叶える場所として、第一志望に掲げていたのが「QAB」です。夢を現実に変えるため、中学時代から放送委員として活動をスタート。高校進学の際も、石垣島にある3つの高校のうち、放送部が有名な学校を選びました。大学卒業後、一番の目標だったQABから無事に内定をいただけたときは、感謝の気持ちでいっぱいでしたね。——これまで仕事をされてきた中で、大変だった出来事ややりがいを感じる場面はありますか?新人時代は、歌ったりモノマネをしたり、いろいろなコーナーを担当しました。ニュースキャスターの姿からは想像できないかもしれませんが、当時の経験が今の私の土台となっています。そして、何よりやりがいを感じているのが、幼い頃からの夢だった野球番組に携わる瞬間です。いよいよ、球児たちがすべてを懸ける甲子園の季節がやってきます。「夏に向けて頑張れ!」という熱い想いを胸に、マイクの前から全力で球児たちを応援していきます。家事は「折半」、職場と「対話」。ともに乗り越える仕事と育児の両立——出産や育児をご経験されるなかで、仕事と家庭を両立するために大切にしていることや、工夫していることがあれば教えてください。山城さん:アナウンサーとして育休復帰後の毎日は、まさに時間との勝負です。 仕事と家庭の両立のため、夫婦で家事も育児も「折半」しています。朝食作りは早く起きた方が準備して途中で交代。朝に子どもを保育園へ送ったら帰りのお迎えも交代、というふうに何でも分けあって進めています。我が家の4歳の息子はイヤイヤ期もあって、朝は靴下を履くまでに10分……という日も。1日分の体力を消耗してから、よしっ!と気合いを入れての出社です。仕事が終わると「早くお迎えに行かないと!」と急いで退社します。 忙しくなる時期が事前にわかっているときは、家族に仕事のシフトを共有し、送迎などの役割分担をあらかじめ調整。家族で協力し合うことで、多忙な日々をなんとか乗り越えています。——女性社員が働きやすい環境として、現在ある制度や取り組み、制度を利用しやすい雰囲気づくりなどについても教えていただけますか?山城さん:今の職場は働きやすいと感じています。育休復帰の際、どれだけ仕事ができるのかわからなかったので、上司と話し合い、無理のない働き方を提案いただきました。仕事をしていくうちに、もっと働けると感じ、現在は木・金の夕方ニュースを担当するなど、勤務の相談をしながら働いています。また、制度面でも非常に助けられています。男性社員も3〜4ヶ月の育休を取得する人が増えており、それを後押ししているのが会社独自の育休手当の補助です。国からの育児休業給付金に加え、会社からも給与の約3割にあたる補助が出るため、休業中も手厚く保障される仕組みになっています。経済的な不安を抱えずに育児に専念できる環境があることは、私たちがこの場所で働き続ける大きな安心感につながっていますね。最近では、QABの報道部にも女性が増えてきました。現在、子育て中のママは私と記者の女性2人ですが、周囲の男性上司や同僚たちが、急なお休みやお迎えの時間が迫ると快くカバーしてくれる空気感があります。さらに、私たちが声を上げて変わった制度は「生理休暇」です。以前は日数に制限がありましたが、女性社員で話し合いを重ね、現在は無制限で取得できるようになりました。同僚とのチャットで「今日は生理休暇をいただきます」と堂々と言える環境になりつつあります。今後もより働きやすい環境を整え、共に報道に携わる女性が増えていくことが、QABで働く私たちの希望です。ニュース原稿を前にした葛藤。プロとしての自分と、深い喪失の狭間で——これまでに流産をご経験されたとお聞きしました。当時の心境やどのように仕事と向きあわれたのか伺ってもよろしいでしょうか。山城さん:1人目の息子を出産した後、私は3度の流産を経験しています。 1度目と2度目は、赤ちゃんの心拍が弱くなっているとわかり、2週間ほど傷病休暇をいただいて安静にしていました。けれど、結果として赤ちゃんは流れてしまい……。そして3度目は、心身ともに一番強い痛みを感じる出来事がありました。3度目の流産のとき、「今回は、もう誰にも言わないでおこう……」という気持ちでした。しかし、手術の日程が決まったことでシフト調整が必要となり、上司に状況を説明することに。その後はしばらくお休みをいただき、自分の心と体に向きあう時間を過ごしました。ようやく仕事に復帰したその日、ニュースのトップ項目は「幼い命に関わる痛ましい事件」でした。命を失った悲しみの中にいる私が、命を粗末に扱われたニュースを読まなければならない。「なんで今日に限って、……」という、気持ちの中で原稿を読みました。伝える立場に立っていると、こういうこともあるんですね……。当時は気分の浮き沈みも激しくて、ぼーっとしているだけで泣けてくることもありました。「アナウンサーとしての自分」と、情緒が不安定な「今の自分」との大きな差に今も葛藤中です。本当はもう誰にも知られず、休みをもらって自分の気持ちと向きあいたいと思いました。会社に来ていると仕事に集中できますが、家に帰ると、もう少しこの状況について考えたいな、という気持ちになります。「今は自分の気持ちと向きあう時間に費やす方が大事」と思えるようになり、正直な心境を会社に伝えました。現在は勤務形態を調整してもらうなど、私の希望に沿った形で対応していただいています。お休みをもらいながら、今後は不育症の検査も受ける予定です。ひとつひとつ優先順位をつけながら、少しずつ動き始めているところです。自身の経験を「伝える力」に変えて。医療や教育の現場から、必要としている方に届く言葉を——山城さんがこれから挑戦したいこと、目標とされていることがありましたら教えてください。山城さん:産休前は、毎年10月のピンクリボン月間に合わせて乳がんの取材を続けてきました。復帰して、自分自身が命の喪失や葛藤を経験するなかで、命の現場や小さい子どもの教育にも関心がある、と思い始めています。今後は、医療や教育についての取材など、これまで積極的に踏み込めなかった分野への挑戦も視野に、自ら現場へ足を運び、企画や特集として形にしていきたいです。また「不育症」についての取材にも力を入れていきたいです。各市町村が実施している検査や治療への補助金制度など、不育症に悩んでいる方が本当に必要としている情報も発信していきたいです。「画面の向こう」の私も、あなたと同じ葛藤の中にいる——最後に「誰にも言えない気持ち」を抱えながら懸命に日常を送っている女性へ、山城さんからメッセージをお願いします。山城さん:産婦人科で「流産を経験される方はいるので、あまり気負わずに」と言われても、自分の周りには流産の話をする人はほとんどいなくて……。「本当なのかな」と思っていました。私自身、流産について誰にどこまで話していいのか分からず、周囲に伝えるのも、あるいは状況を察してもらうのも、本当に難しいと感じています。誰にも打ち明けられないまま、自分の中でずっと「モヤモヤ」が消えずに残っていたんです。けれど、今回話すことで「切り替え」のきっかけになりました。私のような画面に出てニュースを読んでいる人でも、流産を経験して、悩み、そして自分自身と向きあいながら一歩ずつ進もうとしています。私の姿を見てもらい、いま同じような境遇にある方の心に、何か届くものがあったら。一人で抱え込んでいる誰かの心が、ほんの少しでも軽くなることを願っています。これからも、QABアナウンサーという報道の道で、自分らしい働き方を大切にしながら、必要としている方へ届く言葉を発信していきます。——本日は貴重なお話をありがとうございました。