結婚や出産といったライフステージの変化は、女性のキャリアに大きな影響を与えます。「現場の仕事は好きだけど、子どもとの時間も大切にしたい」「急な発熱で職場に迷惑をかけるのが心苦しい」。そんな葛藤を抱え、正社員として働き続けることに高いハードルを感じる人は少なくありません。沖縄県北部でホテルや商業施設を運営する前田産業ホテルズも、働く女性の葛藤に真摯に向き合う企業のひとつです。今回は、人事課の課長と「女性活躍推進室」のメンバーを兼ねる浦崎さんにお話を伺いました。現場と経営の架け橋となり、いかにして自分らしい働き方を叶えているのか。会社のサポート体制や、変化し続ける「働く女性のリアル」への向き合い方を詳しく紐解きます。現場から人事へ。自ら道を切り拓く決断現在、人事課の課長を務める浦崎さんは、8歳、5歳、3歳の3姉妹を育てる多忙なお母さんでもあります。入社から7年、その間に2度の産休・育休を経験してきました。キャリアのスタートは「ホテルマハイナ ウェルネスリゾートオキナワ」や「オキナワ ハナサキマルシェ」などの現場でした。得意の中国語を活かして活躍していましたが、3人目の育休明けに大きな転機が訪れます。会社から打診されたのは、未経験の「人事」という職種でした。浦崎さん: 人事の仕事に誘われたときは、新しいことに挑戦してみたいという気持ちで引き受けました。今は採用や労務管理など、会社の土台を支える業務を担当しています。現場での経験があるからこそ、スタッフ一人ひとりの状況に寄り添った対応ができると感じています。「家族を最優先に」上司の言葉に救われたあの日ホテル業界は「24時間365日の稼働で忙しい」というイメージが強いですが、前田産業ホテルズでは柔軟な働き方が根付いています。浦崎さん自身、6時に起床し子どもたちを送り出し、9時に出社する慌ただしい毎日を送っていますが、周囲のサポートに助けられていると語ります。浦崎さん: 子どもの急な発熱などで帰らなければならないとき、上司から「家族を一番に優先していい」と言ってもらえたことが、すごく心に残っています。申し訳ないという気持ちもありましたが、その言葉に救われました。このあたたかな風土は、具体的な制度にも反映されています。基本の休みは月8日のシフト制ですが、2025年から「ワークライフバランス休暇」が導入されました。これは毎月1回、有給休暇とは別に取得できるお休みです。浦崎さんはこれらの制度をフルに活用し、子どもの運動会や保育園の行事には欠かさず参加しています。浦崎さん: 例えば祝日が保育園の休園日なら、そこをお休みにして代わりに土曜日に出勤するなど、柔軟に調整しています。子どもの大切なイベントを諦めなくていいのは、本当にありがたいですね。さらに、年間3万円まで利用できる「自己啓発支援制度」もあり、浦崎さんはこれを利用して中国語を学び直すなど、自己研鑽も欠かしません。浦崎さん: この制度のおかげで、中国語をもう一度しっかり勉強し直すことができました。自分のスキルアップを会社が応援してくれるのは、本当にいい制度だなと感じています。「女性活躍推進室」が変える、職場の小さな当たり前浦崎さんは課長の業務と兼務して、「女性活躍推進室(通称:女活)」のメンバーとしても活動しています。2022年4月1日に新設したこの組織は、女性が働きやすい職場を自分たちで考え、提案する場所です。これまでに実現した改善案のなかで、特に印象的だったのが「出産祝金の受け取り方法」の変更でした。浦崎さん: 以前は祝金を現金で手渡ししていましたが、産後の女性が小さな子どもを連れて来社するのは大変ですよね。それを振り込み形式に変えるようメンバーから提案がありました。当事者だから気づく不便さを一つひとつ解消していくことが大切だと思っています。「女活」の活動は、社内制度の改善だけにとどまりません。最近では地域との連携を深めるため、名護市にある「若年妊産婦の居場所 pono(ポノ)」への見学会を実施しました。ponoは、主に20歳未満で妊娠・出産を経験し、周囲の支援が必要な女性たちが安心して過ごせる場所です。家事の練習や就職・復学の相談など、自立に向けた幅広いサポートを行っています。浦崎さんはメンバーと共に現地を訪れ、支援の現場を直接肌で感じてきました。「女活」のメンバーとして、今後もこの活動には継続して力を入れていきたいと考えています。すでに来年以降の連携についても施設側との協議が進んでおり、具体的な活動内容が固まりつつあります。浦崎さん: すぐに雇用に結びつかなくても、まずは地域社会に貢献したい。将来的に働く場所としての選択肢があることを知ってもらうだけでも、大きな意味があると思っています。単に自社の環境を整えるだけでなく、地域全体で女性を支えていく。そんな会長の想いと浦崎さんたちの行動力が結びつき、支援の輪は社外へも確実に広がっています。「温かさ」が支える、低い離職率の理由前田産業ホテルズは、ホテル業界のなかでは離職率が低いことが特徴です。その背景には、制度だけでなく、経営陣と社員の間に流れる「温かな文化」があります。インタビューのなかで、浦崎さんは「会社の温かさ」を象徴する、ふたつの忘れられないエピソードを教えてくれました。ひとつは、現場スタッフだった入社間もないころ、当時の社長から名前を呼ばれたことです。浦崎さん: ホテルマハイナの現場にいたとき、当時社長だった裕子会長(現取締役会長 前田 裕子氏)にばったりお会いしたんです。入社したばかりの一スタッフにすぎない私の名前を「浦崎さん」と呼んでくださって、本当に驚きました。ちゃんと書類を見て、誰を採用したのかを覚えていてくれたんだと、ひとりの人間として認識されている喜びが仕事への誇りにつながりました。もうひとつは、コロナ禍で経営が厳しく、賞与が出せなかった時期のお話です。裕子会長が自身のポケットマネーから全社員へ激励金を配り、感謝を伝えてくれたことがありました。浦崎さん: 会長が「気持ちだから」と出してくださったその封筒、実はいまでも大切に持っているんです。私は普段、物をすぐに捨てるタイプなのですが、これだけはどうしても捨てられなくて。こうした愛のある厳しさと温かさが、この会社のなによりの魅力だと思います。多くの従業員を抱える企業でありながら、一人ひとりの存在を大切にする。そんな経営陣の姿勢が、浦崎さんをはじめとする社員たちの「ここで働き続けたい」という原動力になっています。浦崎さんが描く、これからのキャリアと決意現在は3姉妹の成長を最優先に見守りながら、仕事とのバランスを保っている浦崎さん。しかし彼女の視線はすでに、その先にある自身のキャリアや会社全体の未来も見据えています。浦崎さん: 後輩たちには、私が上司に言ってもらったように「家族を一番に優先していいんだよ」と伝えたいです。周りに甘えながら、今の自分に無理のない働き方を選んでほしいですね。また女性活躍推進室のメンバーとしては、現場の女性たちの声を一つひとつ形にすることを目指しています。一人ひとりが抱える課題に寄り添い、制度をより良いものへとアップデートしていくことが、今の彼女の大きな原動力です。浦崎さん: どのようなライフステージにあっても、自分らしい働き方を諦めずに済む。そんな環境をさらに整えていきたいです。子どもたちが成長して手が離れたとき、私自身もまた、がっつりと仕事に向き合える日を楽しみにしています。会社の温かなサポートに救われた経験を、今度は自分が誰かのために還元していく。浦崎さんのしなやかな情熱は、前田産業ホテルズが目指す「全員が働きやすい環境」を創るための、確かな一歩となっています。――本日は貴重なお話をありがとうございました。